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東京地方裁判所 昭和48年(合わ)318号 判決 1973年11月14日

被告人 高橋隆雄

昭一三・三・二生 自動車運転手

主文

被告人を懲役四年に処する。

未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、もと肩書住居たる東京都江戸川区内において寿司屋を営んでいたが、昭和四六年夏ごろ妻子を妻の実家に帰すとともに営業をやめ、それ以来単身で右住居に住み、東京都江戸川区内の会社で自動車の運転手などをしていたものであるが、昭和四八年八月四日午後八時ごろ夕食をとりに外出するにあたり、一人では無聊のため、かねて自己によくなついていた隣家の○部○夫の長女A子(昭和四五年二月一三日生)をその母親○部○子の許しを得て連れ出したが、その際、幼い同女と二人きりであるのを奇貨として、同女が一三歳未満であることを知りながら、わいせつの目的で、同日午後一一時三〇分ごろから翌五日午後一時二〇分ごろまでの間に、同女を東京都江戸川区内の路上に駐車してあつた勤務先の普通貨物自動車の運転席内に連れ込み、同所において、帰ると言う同女の前額部等を運転席のハンドルに打ち当てたうえ、同女の身体にたばこの火を押し当て、同女の陰部を手指で弄び、さらに、同女を右自動車から約二〇〇メートル離れた肩書住居に連れ帰つたうえ、同所においても、前同様に同女の身体にたばこの火を押し当て、同女の陰部を手指で弄び、もつて同女に対して強いてわいせつの行為をなしたが、その結果、同女に対し、その陰部に圧挫傷、左大腿部、臀部、顔面、左上肢および右前腕に大きさのほぼ一定した(いずれも約一センチメートル×〇・八センチメートル)合計一一個の第二度熱傷ならびに前額部および左側頭部に打撲傷(以上の創傷の加療に約一二日間を要する。)の傷害を負わせたものである。

(証拠)

判示の事実は、(証拠略)を総合してこれを十分に認定することができる。

なお、被告人は捜査段階から公判に至るまで終始犯行を否認し、弁護人五藤昭雄もまた、とくに前記証人A子に対する当裁判所の尋問調書(以下、これをA子の証言といい、その他、前記各証人の「当公判廷における供述」、「公判調書中の供述部分」等、証人に関するものは、すべて、便宜、「証言」と表示して引用する。)の証拠能力あるいは証明力を争うなど、種々、論を構えて被告人の無罪を主張しているので、以下、若干補足して説明を加える。

1  そもそも本件は、弁護人の争うA子の証言を暫く除外するとしても、その余の前掲各証拠によれば、被告人が前示のごとく、昭和四八年八月四日午後八時ころにA子を連れ出し、同日午後一〇時ごろには、同都江戸川区内の中華そば屋「ふくはら」に立ち寄つてみずからは飲酒するとともにA子にはそばを食べさせるなどした後、同日午後一一時ごろA子を伴つて同店を立ち去つたこと、その後、判示駐車中の自動車の運転席にA子を乗せて暫く時を過した後、さらに同女を被告人方に連れ帰つてその夜は同女を泊らせ、翌五日午後一時二五分ごろ、一糸まとわぬ全裸の同女と同衾しているところを捜索中の警察官らに現認され、A子はその場において直ちに右警察官らによつて救出されるとともに側に来ていた母○子に引き渡され、被告人は強制わいせつ等の現行犯人としてその場で逮捕されるに至つたものであることが認められ、右の経過事実、とくに、その間被告人が、終始、A子と行動を共にして一緒にいたことについては被告人もこれを認めて争わないところである(もつとも、判示駐車中の自動車に立ち寄つた点については、被告人は積極的にこれを認めているわけではないが、本件発覚後、右自動車内から、当夜A子が携行した玩具等が発見されていることから右立寄の事実は明白であり、右車内からは、他に同女が当夜履いて出たサンダルも発見されたことに徴すれば、右の立寄は右「ふくはら」に立ち寄つた後であることも明白であり、以上の事実にかんがみてか、被告人も、とくにこの点は争うことをしない。)。そして、前記○部○子の証言によれば、五月四日午後八時ごろA子が被告人に連れられて出て行くさいには同女の身体には判示のような傷もなく、「ふくはら」の経営者たる○辺○の司法警察員に対する供述調書によれば、A子が被告人に連れられて右「ふくはら」に立ち寄り食事したさいにも同女の身体には何らの異常も窺われなかつたことが認められ、しかるに、翌五日午後一時二五分ごろ、右のごとく同女が被告人と一緒に寝て居るところを発見救助されたときには、同女の身体に判示のような傷のあつたことが右現認警察官である黒田茂幹、堀切一男および母○子、医師加藤守也の各証言、実況見分調書添付のA子の写真等によつて認められるのであるから、判示A子の傷害は、右「ふくはら」を出た五月四日午後一一時ごろから、発見救出された翌五日午後一時二五分ごろまでの間に負わされたものというべく、そして、それは特段の事情のない限り、その間、終始、A子と一緒にいたという被告人の所為によるものと推認することができる。しかるに、被告人は、右の間における自己の行動についてはひたすら犯行を否定し、一目瞭然たる熱傷痕についてすら、格別気にもしていないのでその存在すら気づかなかつたなどと不合理で納得しがたい弁解を繰り返すばかりであるし、取調べた各証拠を仔細に検討してみても、右の間に被告人以外の者がA子と接触した形跡はまつたく窺われない。もつとも、被告人は、A子の傷害について、「しよつちゆう怪我をしている子だ」とか、「いつも……真黒になつて遊んでいるし」等、その趣旨、あたかも、A子の身体に存する傷害は従前から存在したものか、あるいは、A子みずからの手による受傷であるかのごとき弁解もしているが、同女が被告人に連れ出される以前には判示のごとき傷害がなかつたことについては前述のとおりであり、判示のごとき熱傷をみずからの手によつて負うがごときは論外である。陰部の傷害についても、母○子の証言によれば、本件後一週間位は「おしつこするたびに痛い痛いと言つていました」ということであり、かかる程度の傷害を幼児みずからの手で負うなどは、到底首肯することができない。

以上のような情況に照らせば、弁護人の争うA子の証言を除外しても、A子に対し判示傷害を負わせたのは被告人であり、かつ、同女の陰部に傷害の存することが認められる本件にあつては、被告人が強制わいせつ致傷罪の責任を免れえないことはすでに明白といわざるをえない。

2  ところで、被告人は前記のごとく犯行を否認し、他に目撃者もない本件にあつては、A子の前記傷害の原因となつた被告人の行為について、その場所、態様等をさらに詳細にして事実を確定するには、被害者であるA子の供述にまたねばならないところ、弁護人は、A子は本件被害の当時満三歳六月、証人尋問当時満三歳八月の幼児で、その精神能力も未発達であり他からの暗示を受け易く、すでに同女は、本件被害当時からその被害状況について両親や取調官らから繰り返し誘導による尋問を受けていると思われることおよび被害当時から隔ること約二か月後の当裁判所の証人尋問にさいし、実況見分調書添付の写真を示しながらの、あるいは誘導による尋問方法がとられたことに影響され、その結果、同女自身が経験していない事実をあたかも経験した事実であるかのように錯覚して証言したおそれが大きく、かかる証言は本来供述能力のない者の証言であつて証拠能力がなく、かりにこれありとしても、その証言は到底信用することができない旨主張する。

たしかに、同女の年令、証人尋問のさいの同女の挙措、言動等に照してみても、同女が精神能力の十分に発達していない幼児であることは弁護人指摘のとおりであるが、当該証人が年令三歳六月ないし三歳八月の幼児であるからといつて、ただちにそのことから、一般的に供述能力がないとか、あるいはその証言に証拠能力がないなどということはできない。すなわち、証人とは、自己の体験した事実を事実として記憶し、後日、裁判所に対して報告する者であるから、かかる能力がまつたくない者については格別、いやしくもその能力が認められる以上は、これを証人として尋問をなしうるや否やは、具体的事件における具体的状況を前提として、個別的、具体的に判断して決すべきものであり、かつ、この判断にさいしては、証人として報告を期待する事項もまた当然大きな要素となるものと考える。これを本件についてみると、A子の年令は前記のとおりではあるが、その証言事項は、自己自身がたばこの火を体につけられたかどうかなど、まつたく異常な、かつ、熾烈なまでに衝撃的な体験に属することであつて観察に特別な能力を要するものでもなく、それだけに記憶もたやすくは消滅しえないものと考えるのが一般であり、ただそれを報告するについて、とくに言語による事実の再現等、その表現方法に稚拙、不完全な点のあることは否定できないが、そのことは、成人の証人についても問題となりうることであつて、事は証言の信憑性の問題として決すべきであり、一般的な証拠能力の問題ではないと解する。そして、本件証人A子は、その母○部○子の証言によれば、生後一年三か月の時から保育園に預けられ「おにいさんよりもはつきりしているとほめられている」というにあり、事実、当裁判所の尋問調書の内容に徴してもそのことは窺われるのであるから、A子を証人として尋問したことが違法であるとか、その証言に証拠能力がないとする所論は採用できない。

3  つぎに、その信憑性について検討してみると、右のような証人の年令に加え、同女が証人尋問の時までに母親や取調官などから再三被害状況などについて質問され、場合によつては誘導的質問を受けたであろうことは想像に難くないところであり、当裁判所の証人尋問のさいに、一部、実況見分調書添付の写真を示す方法がとられ(しかし、これは、弁護人においてもなんら異議のなかつたところである。)、また誘導尋問がなされたことも弁護人指摘のとおりである。したがつて、問われたことに対し、ただ「うん」と肯いたり、いわゆるおうむ返しの答がなされている点もないではないが、しかし、同女は、たとえば、火傷(判示熱傷)の点につき、尋問開始の直後、警察官から左顔面に火傷痕らしいものが認められる同女の上半身を撮影した写真(本件実況見分調書添付のNo.3の写真)を示されるや、「痛い。」と答え、そのあと裁判長から「どうして痛くなるの。」と尋ねられるや、即座に「たばこの……」と答え、さらに検察官から「たばこの……」と問い返されると「たばこの火。」と明確に供述したうえ「ここ、ここ」と言いながら、右写真の火傷痕と思われる個所を順次指で示しながら「痛いの。」と供述し、さらに、裁判長から紙巻たばこ一本を与えられて「たばこをどうされたの。」と尋ねられると、右実況見分調書添付のNo.1ないしNo.6合計六枚の写真(いずれも、判示創傷を明らかにするために撮影された同女の写真)を捲くりながら、各写真中の火傷痕らしい個所に右たばこの先を順次押し当ててみせ、検察官の「どこでつけたの。」との問いに対し、「車の中で。」と答え、「おじちやん(被告人の意)のおうちでは。」との問いには「やつた。」と答え、いずれも何ら躊躇逡巡の態度もみせずに即座に明瞭に供述しており、大筋においては、殆んど誘導によるものではなく、もちろん、その用語は年令相応に稚拙なものではあるが、問われたことに対しては、自発的かつ明確に応答し供述しているところである。そして、その供述態度は、その場の雰囲気に狎れるにつれて、時には尋問と関係のないコマーシヤル調の言葉がとび出したり、速記官のソクタイプをいじつたり、天衣無縫にしてまことに天真らんまん、そこには、母親等他から教えこまれるなどして、ためにする虚偽の供述をしているのではないかなどと疑われるような作為の影や不自然さはいささかも窺われず、ただ事実を事実として卒直簡明に伝えているものであることが如実に感取されるのであり、この点、とかく供述に粉飾があり、時に不自然さの介在しがちな成人の証言にまさるともいいうるのである。のみならず、同女の供述するところは、前記のような同女の身体に認められた各創傷の部位、程度、生成方法と矛盾するところはなく、被告人が同女を判示自動車運転席内に連れ込んでいる事実(この事実は司法警察員作成の実況見分調書((被告人方居宅等を見分したもの))によつて認めることができる。)、被告人が同女を自宅へ連れ戻つたのちその着衣を脱がせている事実(この事実は被告人においても自認するところであるし、○部○子の証言、黒田茂幹の証言および右実況見分調書によつて認めることができる。)など客観的事情にも符合しているところよりして、A子の証言には弁護人の懸念するがごとき点はいささかも認めえず、これを十分に信用することができるものというべきである。そしてその証言によれば、同女の身体に存する判示創傷は、判示のごとく、駐車中の自動車内および被告人の自宅において、それぞれ、被告人によつて負わされたものと認定することができるのである。

4  もつとも、判示創傷のうち、前額部等に存する打撲傷の原因となつた被告人の行為の詳細を確定するについてはいささか事情を異にする。すなわち、この点について、A子は、車の中において、同女が家に帰ると言つたら被告人が怒つて同女の「おでこをこつんとした」旨の証言をしているが、それ以上の詳細は証言していないので、その趣旨は、あたかも被告人が手拳等で直接同女を殴打したとの事実を供述しているもののごとくにも理解される。しかし、母○部○子の証言によれば、A子は母親に対し、「被告人に後頭部を掴まれて自動車の運転席のハンドルにおでこをぶつつけられた」旨の説明をしていたことが認められ、これによつて右A子の証言を補足して理解すれば、被告人は右のごとき方法によつて判示打撲傷を負わせたものと認められる。ところで、弁護人は、右○部○子の証言は(この点に限らず)伝聞供述であつて証拠能力はないと主張する。

たしかに、○部○子の証言中には、A子の言動に関する部分が他にも存するが、その大部分は、A子の本件被害後の状況を状況としてみずから現認したことを自己の体験として供述しているのであつて伝聞禁止の法則にふれるものではない。ただ、右引用部分は、A子が母親たる○子に説明した内容そのものを証拠に供しようとするわけであるが、○部○子の証言によれば、同女がA子から右引用部分のような説明を受けたのは、A子が前述のごとく救出された直後に、母親たる○子に泣いてすがりつきながら、真しに訴えた一夜の被害状況の一部であることが認められるから、そのさいのA子の供述はとくに信用すべき状況の下における供述であつたと認められるし、本件においては、いわゆる原供述者たるA子が、前述のごとく証人として当裁判所の尋問に対しても供述しているのではあるが、幼児の、とくに言語による事実の再現方法には、年令相応に稚拙不完全な点のあることの否定できないことはすでに説示したとおりであるし、それが裁判所等まつたくの第三者に対する場合には、自己の真意を伝えるに一そうの困難を感ずるものと思われるところ、母親等日常起居をともにし、平素から意思感情の疎通している者に対しては、かかる関係にある者のみが理解しうる言語、それを補う態度、表情等をも加えて事実の再現、報告がなされるものであることもまた否定できないところの経験則である。そして、そのような幼児の体験事実をよりよく記憶し、後日、より完全に報告しえて、より十分に反対尋問にたえうる者は、むしろ母親であるともいえるのであつて、そうだとすれば、被害直後に、被害者たる幼児からその被害状況の真しな報告を受けた母親の証言には、その被害状況についても常に証拠能力があると解する余地があるが、それはともかく、本件の場合のように、当該幼児が証人としてある事実について一応の供述をしている場合であつても、その真意を理解し、その趣旨を補足して理解するに必要がある場合には、たとえそれが伝聞供述であつても証拠能力を認めることができるものと解するので、弁護人の主張は理由がない。

5  さらに、弁護人は、本件熱傷に関して、その原因となつた行為がいかなる意図のもとにA子に対してなされたものであるのかが不明であるから、右熱傷をもつて強制わいせつ致傷罪にいわゆる傷害であるということはできないと主張するので、検討するに、まずもつて、本件にあつては、判示自動車の中および被告人方の双方において被告人がA子の陰部を手指をもつて弄んだ所為、すなわちわいせつ行為たることの明白な所為によつて生じた判示圧挫傷が存するのであるから、本件において強制わいせつ致傷罪が成立することについては疑問の余地がない。したがつて、もし、被告人の行為によつて生じた本件の熱傷が被告人の本件わいせつの意図(陰部を弄ぶ目的)とまつたく無関係なものであるとすれば、その程度にかんがみてこれを無視することはできず、別罪(傷害罪)の成立を認めざるをえず、これと右強制わいせつ致傷(陰部を弄んでの傷害)罪とは併合罪の関係に立つと言うべきであるから、右熱傷と本件強制わいせつの行為との因果関係を争う所論は、結局において被告人にとつて不利益な主張に帰するおそれがあるものというべきであるが、それはともかく、前記A子の証言によれば本件の熱傷の原因となつた行為は本件自動車内および被告人方の両方の場所において行われていることが認められるのであるから、それは、前記A子の陰部を弄ぶ行為と同一の被害者に対し、同一の場所において、同一の機会に行われたものということができること、さらには、本件実況見分調書によつて認められる、A子の身体に存する合計一一個の熱傷のうち、三個が同女の左大腿部内側に、一個が左大腿部外側に、二個が左臀部(なお、押収してあるパンツに火の痕跡がないから、この臀部の熱焼はパンツを脱がしての犯行と認められる。)に、それぞれ存在して、本件熱傷の半分以上が同女の陰部の周辺もしくはそれに近い場所に集中して存在する事実に徴すると、右熱傷の原因となつたたばこの火を押し当てる行為は、特段の事情のない限り、被告人が自己の性欲を刺戟、興奮させ、あるいはその満足を助長する意図のもとに行つたものであると推認するのが相当であるところ、本件においては、被告人が他に右以外の意図を有していたことを窺わせる証拠もなく、被告人自らもこの点につき何らの弁疏もしないのであるから、以上の情況を総合すれば結局、本件の熱傷は、被告人が判示のごとく、わいせつの目的で、本来わいせつ行為たることの明白な陰部を弄ぶ行為に随伴し、これと密接な関連においてなされた暴行(たばこの火をつけること)によつて生じた傷害であると認めるに十分であり、ひつきよう、判示各傷害は、いずれも、強制わいせつ致傷罪にいわゆる、わいせつ行為によつて生じた傷害として評価すべきものある。

(法令の適用)

被告人の判示所為に包括して刑法第一八一条(第一七六条)に該当するので、所定刑中有期懲役刑を選択して、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役四年に処し、同法第二一条を適用して未決勾留日数のうち三〇日を右の刑に算入することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用してこれを全部被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、純真でいたいけない幼女が被告人を信頼し、何の不安も感じないでついて来た機会を利用して、同女を約一八時間余の長きに亘つて抑留したうえ、自己の性欲の満足の具に供したものであり、あまつさえ、残酷にも、同女の身体各部に合計一一か所の多数に亘つてたばこの火を押し当てるなどし、その結果、加療約一二日間を要する判示傷害を与えたものであつて、その犯行の態様は悪質というほかなく、そのほか、本件が幼い被害者やその両親に与えた衝撃も大きく、そのことは、被害者たるA子に対する当裁判所の尋問にさいし、同女が被告人を見るや、それまでの態度表情を一変して「怖い」と叫んで傍の母親にしがみつき、母○子もまた、当公判廷において、被告人の厳罰を望む旨述べていることに徴しても明白であり、さらに、本件が近隣社会に与えた影響も大きいであろうと推認しうることなどの諸事情をも総合考察すると、被告人の責任は重いといわねばならず、弁護人所論のように、本件が飲酒のうえの一時の出来心によるものであるとか、本件と同種の前科・前歴等はないとか、あるいは示談金の用意をしてある(ただし、被害者の親はその受領を拒んでいる。)等、諸般の事情を十分斟酌しても、主文の刑はやむをえないところと考える。

よつて、主文のとおり判決する。

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